本文は、塩化第二鉄 無水 をご使用いただく際のご参考として、
塩化第二鉄液 (エッチング液) の作成方法や
鉄の黒化処理(黒染め)の手順などについて記載したものです。
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本文の各項の概要はそれぞれ下記のとおりです。
§1 ... 塩化第二鉄液の濃度(ボーメ度)について
§2 ... 濃度の管理ができていない塩化第二鉄液の問題点
§3 ... 塩化第二鉄液の品質について
§4 ... 塩化第二鉄 無水からの塩化第二鉄液の作成方法
§5 ... 鉄の黒化処理(黒染め処理)の手順について
§6 ... 廃液処理について
以下、内容について記載いたします。
下図は塩化第二鉄液に単純に浸す方法で銅をエッチングした場合の
塩化第二鉄液の 濃度(ボーメ度) と エッチングの速度 の関係を示したグラフです。
        注記(1)  ボーメ度は液体の比重の単位です。
                    
ボーメ度が高くなるほど濃度が高くなります。
        注記(2) 
エッチングの速度とはエッチングにより金属表面を削る速度のことです。
                    
エッチングの速度が大きいほどエッチングの反応が進みやすく、
                    
逆に速度が小さいほどエッチングの反応が進みにくくなります。
上記のグラフから
塩化第二鉄液の濃度とエッチングの速度には
次の関係がある事がわかります。
    ・ エッチングの速度は ボーメ 30度 前後で最も速くなる (A)
    ・ ボーメ 30度 以上ではボーメ度が高いほどエッチングの速度は遅くなる(A,B,C)
    ・ ボーメ 43度 以上ではエッチングの速度は特に著しく遅くなる (C)
また、エッチングの経験則から
塩化第二鉄液の濃度とエッチングの品質(仕上がり)には
次の関係がある事がわかっています。
    ・ エッチングの形状や表面の滑らかさはボーメ度が高いほど良くなる
    ・ エッチングの形状は ボーメ 39度 以下では実用に耐えないほど悪化する
これらの結果から塩化第二鉄液の濃度について次のように考える事ができます。
エッチングの反応だけを優先するのであれば
塩化第二鉄液の濃度は ボーメ 30度 前後が望ましいですが、
エッチングの品質が悪化するため ボーメ 39度 より低くできません。
エッチングの品質のためには塩化第二鉄液の濃度はできるだけ高くすべきですが、
ボーメ 43度 以上では液の粘性が増加して流動性が著しく低下するため
通常の方法ではエッチングの反応が全く進まなくなります。
金属を単純に塩化第二鉄液に浸す方法の場合、
塩化第二鉄液の濃度は ボーメ 43度 より高くできません 。
以上の理由により、
一般的な使用を前提とした場合の塩化第二鉄液の濃度は
ボーメ 40 ~ 42度 の範囲 となります。
        注記(3) 
仕上がりを重視してボーメ 43度以上の濃度で処理を行うには
                    
スプレーや循環層などの強制的に液を流動させる装置が必要になります。
                    
循環槽はエアポンプと塩ビ管などの市販品で簡単に作成できます。
                    
作成例は後述の §5 の写真をご参照ください。
塩化第二鉄液の保管や管理、容器などに問題があった場合、
製造した時点では ボーメ 40~42度 の範囲に濃度が調整されていても
水分の蒸発によって上昇していることがあります。
極端な例ですが、たとえば ボーメ 42度 の塩化第二鉄液の場合、
全体積の 8% に相当する水分が失われると濃度は ボーメ 45度 まで上昇します。
前述したように、濃度がボーメ 43度 以上になると
塩化第二鉄液に浸すだけの方法ではエッチングの反応がほとんど進まないため、
濃度が ボーメ 45度 まで上昇した塩化第二鉄液を使用した場合には
何時間も塩化第二鉄液に浸しているのに全くエッチングできない
という問題が発生します。
濃度が低すぎると金属と反応しやすい反面エッチングの品質は悪くなり、
濃度が高すぎるとエッチングの品質は向上するものの金属と反応し難くなります。
エッチングの挙動は塩化第二鉄液の濃度の僅かな違いで大きく変化するため、
安定した処理結果を得るには塩化第二鉄液の濃度の管理が非常に重要になりますが、
塩化第二鉄液が所望の濃度かどうかを確認するのは一般的には困難です。
塩化第二鉄液を 塩化第二鉄 無水 から作成する場合、
塩化第二鉄 無水 の量と 加える水の量さえ正しければ
全く同じ濃度の塩化第二鉄液を必要な量だけ常に正確に作成できるため、
エッチング処理の品質の均一化、安定化が期待できます。
エッチング液として一般的に安価に入手できる塩化第二鉄液は
スクラップとして集められた様々な鉄くずをまとめて塩酸に溶かし、
上澄みに塩素を加えて製造されています。
鉄の原料として鉄くずを使用した塩化第二鉄液は
原料に由来する様々な不純物を多く含むため品質が悪く、
塩化第二鉄液の製造メーカーでは 「リサイクル品」 と呼んで
鉄の原料に高純度の電解鉄を用いた高品質の塩化第二鉄液とは区別しています。
こうした区別が必要になるのは
区別の必要があるほどに品質に差があり、
また、
品質の差が結果の差となるためです。
塩化第二鉄液の品質は処理の速度と結果に大きく影響するため、
安定した良好な処理結果を得るには
純度が高く不純物の少ない塩化第二鉄液を使用することが重要になります。
本品は鉄の原料として純度99.9%以上の電解鉄を使用しており、
原料に由来する不純物の極めて少ない高純度品です。
本品には粉末状の結晶の他に
数ミリ程度に成長した六角柱状の結晶が含まれますが、
高純度化のための再結晶の過程で成長したものです。
上記の表は 塩化第二鉄 無水 から
塩化第二鉄液(エッチング液、腐食液) を作成する場合に
塩化第二鉄 無水 120g あたりに加える水の量を濃度ごとにまとめたものです。
たとえば 濃度が ボーメ 40度 (表の上から1番目) の 塩化第二鉄液 は
塩化第二鉄 無水 120g に 約 204g の水を加えることで作成でき、
作成できる塩化第二鉄液の体積は約 234ml となります。
また、濃度が ボーメ 40度の塩化第二鉄液を 100ml 作成するには、
必要となる 塩化第二鉄 無水 の量は 120g x 100ml / 234ml ≒ 51g、
加える水の量は 204g x 100ml / 234ml ≒ 87g となり、
塩化第二鉄 無水 51g に水を 87g 加えればよいことになります。
※ 塩化第二鉄 無水は水に溶けると発熱しますので、
     実際に塩化第二鉄液を作成する際は
     塩化第二鉄 無水 に水を加えるのではなく、
     水に 塩化第二鉄 無水を加えて作成してください。
〇 ご注意ください
塩化第二鉄 無水 には潮解性(空気中の水分を吸収して溶けようとする性質)があり、
容器から取り出した状態で放置すると表面が黄色の水和物に変化し、
さらに放置し続けると液体に変化します。
容器から取り出した後は放置せず、すぐに使用するようにしてください。
特に粉末の場合は空気中の水分を吸収して変化しやすいのでご注意ください。
取り出した後は直ちに容器の蓋(またはチャック)を閉じてください。
粉末が飛び散った場合はウエスなどで拭き取ってください。
塩化第二鉄 無水が水和物に変化したとしても
塩化第二鉄としての性質や性能に変化はありませんが、
吸収した水分のぶんだけ単位質量あたりの塩化第二鉄が減少するため
正確な計量が難しくなります。
塩化第二鉄 無水 を水に溶かすと発熱します。
塩化第二鉄液を作成する際には耐熱性のある容器を使用するか、
水に塩化第二鉄 無水を加える方法で作成してください。
金属製の容器やサジは使用しないでください。
塩化第二鉄には結晶でも水溶液でも強い酸性と金属腐食性がありますので、
塩化第二鉄の取り扱いにはセラミックやガラス、
樹脂などの容器やサジを使用してください。
〇 塩化第二鉄液の保管について
塩化第二鉄液を保管する容器には飲料用のPETボトルなどが使用できます。
ただし、塩化第二鉄 無水から塩化第二鉄液を作成する際には発熱を伴いますので、
塩化第二鉄液を作成する場合には耐熱性のある容器を使用してください。
ご参考として 塩化第二鉄液の酸化作用によって
鉄の表面に
酸化膜を形成する黒化処理(黒染め処理)の手順について記載いたします。
鉄の黒化処理について
鉄を塩化第二鉄液に浸した時に起きる反応は、
塩化第二鉄液中の3価の鉄イオン Fe3+ が還元され、
液に浸した鉄 Fe が酸化されて共に 2価の鉄イオン Fe2+ に変化するものです。
この時、液に浸した鉄は黒色の FeO (酸化鉄(II) , 酸化第一鉄) を
表面に形成しながら Fe2+ に変化して塩化第二鉄液に溶けます。
酸化鉄(II)で鉄の表面を覆うことにより
鉄の表面の酸化の進行(鉄さびの発生)を防ぐ効果があるほか、
表面を黒色にする処理(黒化処理)としても利用されています。
金属表面の下準備
処理を行う金属の表面に油脂や汚れがあると処理の妨げとなります。
必要に応じて表面の脱脂や研磨、洗浄を行って取り除いてください。
黒化処理をしない部位はポリイミドなどの耐薬品性のある材質のフィルムや
テープを貼付するなどして塩化第二鉄液から保護してください。
塩化第二鉄液と中和液の作成
塩化第二鉄液の作成については §3 をご参照ください。
中和剤は別途ご用意いただくか、
中和剤が付属しているセットをお求めください。
本品付属の中和剤の場合、
水1000ml あたり中和剤 約 2g を加えると中和液が作成できます。
塩化第二鉄液の温度について
処理に使用する塩化第二鉄液の温度は30~60℃が一般的です。
反応速度は低温ほど遅くなり、高温ほど速くなります。
ボーメ 40度前後の濃度の場合、
作成直後の塩化第二鉄液は発熱により50℃前後まで液温が上昇するため
処理を始める直前に塩化第二鉄液を作成すれば加熱する必要がなく、
そのまま処理に使用できます。
黒化処理の実施
処理対象となる金属を塩化第二鉄液に浸してください。
液に浸す時間は下記の条件の影響を受けて変化します。
・ 処理を行う金属の種類と表面積の大きさ
・ 塩化第二鉄液の濃度と温度
・ 処理を行う金属の表面への塩化第二鉄液の当て方(流動のさせ方)
ボーメ45度以上の塩化第二鉄液を使用する場合は
液を強制的に流動させる装置(スプレーや循環層など)をご用意ください。
数分あるいは数10分ごとに対象物を液から引き揚げ、
中和液に数分程度浸して中和した後に表面の状態を確認してください。
金属によっては錆が発生しますので水洗は必ず中和してから行ってください。
対象物が塩化第二鉄液に溶解しない金属を含む場合は
溶解しない金属が表面に残ってヌメりのある黒い皮膜(スマット)を形成します。
スマットが表面を覆っていて処理の進行状況がわからない場合は、
ウエスなどでスマットを拭い落して表面を確認してください。
中和後に再び塩化第二鉄液に浸す場合は
水洗して中和液を完全に落としてください。
水洗の水分が残っていると塩化第二鉄液の濃度に影響を与えますので
できるだけ水分は落としてから浸してください。
黒化処理完了後は中和後に水洗し中和剤を落として乾燥させてください。
金属によっては水で濡れた状態で時間が経過すると錆が発生する場合があります、
できるだけ濡れたままで放置せずドライヤーなどで乾燥させてください。
スチール(炭素鋼)などの錆を生じやすい金属の場合は
乾燥後にオイルを塗布して表面を保護してください。
写真1.   黒化処理の結果例
(ボーメ45度、液温40℃、後述の写真2の循環槽を使用して30分間処理を実施、
黒化処理を行わない部位の保護にはポリイミドテープを使用)
写真2.   エアポンプを使用した循環槽の作成例
廃液処理には中和剤が必要となります。
中和剤が付属しないセットの場合は中和剤を別途ご用意ください。
中和剤が付属するセットには中和剤として水酸化カルシウムが付属しておりますのでそのままご使用ください。
塩化第二鉄液の廃液に水酸化カルシウムを混ぜると液中の鉄イオンは水に不溶の水酸化鉄に変化して沈殿します。
この時、エッチングなどで液に溶け込んだ金属は液中に多量に存在する鉄とともに水酸化物となって沈殿します。
液中の金属は全て水酸化物に変化して沈殿するため、
この状態の液をろ過して沈殿物と液とを分離することで廃液から金属を除去することができます。
ろ過にはフィルタとロートが必要になります。恐縮ですが別途ご用意ください。
フィルタはレギュラーコーヒー用のフィルタで問題ありません。
ロートには市販品のほか、大きめのサイズのペットボトルの飲み口側を切断したものでも代用できます。
本品の水酸化カルシウムの量は塩化第二鉄液の中和に必要となる計算値よりも多めになっています。
これは塩化第二鉄液から金属を完全に沈殿させるためには液をアルカリ性にする必要があり、
反応に必要な最低限の量では不足するためです。
塩化第二鉄 無水 125g から作成した塩化第二鉄液に対して
水酸化カルシウム 100g の割合で使用してください。
水酸化カルシウムを塩化第二鉄液に入れると反応して熱を出します。
塩化第二鉄液の濃度が高い場合は特に高温になりますので、水で薄めて濃度を下げた後に少しずつ水酸化カルシウムを加えてください。
水酸化カルシウムは粉末状のままでも水溶液にして投入しても問題ありませんが、一度に全量を投入するのではなく、
反応をみて調整しながら少しずつ投入してください。
ろ過した後の液には、中和によってできた塩化カルシウムが溶けていますが、
塩化カルシウムは海水の成分でもあり自然界に多く存在するため、下水などに流しても問題ありません。
ろ過で液と分離した沈殿物についてはフィルターごと「燃えるゴミ」として処分していただいて問題ありません。
水酸化物となった金属は燃えずに残りますが、燃え残ったゴミは埋め立て処理されますので
燃えないゴミとして処分したのと同じことになります。
また、エッチングの対象となる銅や鉄の水酸化物は水に不溶または難溶のため、
埋め立て処理後に雨水などによる漏出のおそれがなく安全に廃棄できます。